中学受験を考える親御さんの中には、「低学年のうちから塾に通わせなければ間に合わないのでは」と焦る方も多いでしょう。しかし、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんは著書『<中学受験> 親子で勝ちとる最高の合格』で、その考えは誤解だと述べています。低学年のうちは、将来の受験に役立つ「別の力」を養うことがむしろ重要だと指摘しています。
では、低学年のうちに身につけるべき「2つの力」とは一体何なのでしょうか?また、なぜ早期の塾通いが逆効果になりうるのでしょうか?中学受験を成功に導くための新しい視点を一緒に探っていきましょう。
早期塾通いのリスク – 「塾疲れ」と自信喪失
中曽根さんによれば、低学年から塾に通わせることには大きなリスクがあります。それは「塾疲れ」と呼ばれる状態に陥ることです。
低学年のうちは生徒数も少ないため、成績が上位に入りやすい傾向があります。しかし学年が上がるにつれて競争が激しくなり、途中から入塾してきた生徒に追い抜かれることも珍しくありません。
長期間塾に通っているにもかかわらず成績が伸び悩むと、子どもは自信を失ってしまいます。親も「こんなに長く塾に行っているのに」と焦ってしまい、それが子どもにさらなるプレッシャーを与えてしまうのです。
このような悪循環に陥ると、受験本番でも実力を発揮できない可能性が高くなります。早期から詰め込み式の勉強をさせるより、むしろ別のアプローチが効果的だというのが中曽根さんの主張です。
低学年で身につけるべき2つの力 – 「空間認知能力」と「へこたれない力」
では、低学年のうちに身につけるべき2つの力とは何でしょうか。中曽根さんは以下の2点を挙げています:
- 空間認知能力
- へこたれない力
これらの力は、意外にも「今しかできない遊び」や「体験の機会」を通じて育まれるのだといいます。
空間認知能力は、外遊びを通じて培われます。この能力は、算数の立体図形の問題を解く力にも直結するそうです。
一方、「へこたれない力」は、家族でスポーツをしたり自然の中で遊んだりする経験から生まれます。失敗しても再挑戦する力は、長期的な受験勉強を乗り越える上で非常に重要になってきます。
旅の経験が受験に役立つ – 意外な好循環
中曽根さんは、旅の経験が受験勉強に役立った具体例も紹介しています。
旅行ジャーナリストの村田和子さんの息子さんは、9歳で47都道府県を踏破。その後、中学受験の勉強を始めたのは小学5年生の3学期からでしたが、国立大附属中や難関私立中に合格しました。
旅の経験は特に社会科で生きたそうです。暗記が必要な社会科ですが、すでに実際に見聞きした知識があったため、それを整理するだけで済んだのです。
また、訪れた場所が授業で出てくると嬉しくなり、自然と勉強意欲が湧いたとのこと。このような好循環が生まれたことが、効率的な学習につながったようです。
低学年の過ごし方 – 大切なのは「土台作り」
中曽根さんは、低学年のうちは「しっかりとした土台作り」が重要だと強調しています。
具体的には以下のようなポイントを挙げています:
- 学校の勉強がわかれば十分
- 勉強嫌いにさせないこと
- 「今しかできない遊び」や「体験の機会」を与えること
- 規則正しい生活習慣を身につけること
特に規則正しい生活習慣については、脳科学的にも子どもの脳によい影響があることがわかっているそうです。
ただし、学童の代わりに塾に通わせたいという親御さんもいるでしょう。その場合は、受験のためではなく、子どもの好きなこと・得意なことを伸ばせるような環境を選ぶことをおすすめしています。
まとめ
中学受験において、低学年からの詰め込み勉強は必ずしも効果的ではありません。むしろ、遊びや体験を通じて空間認知能力や「へこたれない力」を培うことが、長期的には受験成功につながる可能性が高いのです。
低学年のうちは、学校の勉強をしっかりと理解し、様々な経験を積むことで「土台作り」をすることが大切です。そうすることで、高学年になってから本格的に受験勉強を始めても、効率よく学習を進められるでしょう。
中学受験は長い道のりです。早急に結果を求めるのではなく、子どもの成長に合わせた適切なアプローチを選ぶことが、最終的な成功への近道となるのではないでしょうか。